国指定重要文化財の旧日本郵船(株)小樽支店は、現在、耐震補強を含めた大規模な保存修理工事を行っていて、2018年11月から長期休館中です。
工事自体は2020年(令和2年)7月から始まり、期間は2024年(令和6年)6月の完工を目指しています。
その旧日本郵船(株)小樽支店の工事の進捗状況などを現地で見ることができるという、現場見学会が小樽市の主催で2022年10月15日(土)に開催されました。参加費は無料です。
この見学会は、事前の申し込みが必要で、応募者多数で抽選となり、実は私、落選したんです。あとで聞いたら、午前と午後の2回の開催で、各回約30人の定員に対して、130人ほどの応募があったそうです。すごいですね。
で、落選ではしょうがないと諦めていたんですが、急遽参加できなくなった方が連絡をくださって、代わりにその方の紹介という形で手配していただき、参加することができたんです。本当に感謝です!!
おかげで興味深く見学させてもらい、とても勉強にもなりました。
で、せっかく貴重な現場見学をさせてもらったので、ここで見学会の様子を紹介したいと思います(※写真撮影、及びブログ掲載OKでした)。
今回の保存修理工事と現在の状況について
重要文化財旧日本郵船(株)小樽支店は、1904年(明治37年)着工、1906年(明治39年)10月に落成した、工部大学校造家学科(現東大工学部)第一期生の佐立七次郎の設計による、石造2階建ての小樽を代表する歴史的建造物です。
1984年(昭和59年)から1987年(昭和62年)にも長期間の保存修理工事が行われているのですが、以来30年以上が経過して、外観・内観ともに老朽化が進んていたため、今回、耐震補強を含めた大規模な保存修理工事を実施しています。
破損としては、主に軒先の雨漏りによる外壁石材・壁や天井漆喰・壁紙などの破損が進行していたそうです。
現在は、本館の耐震補強工事・小屋組の補修などを終えたほか、屋根板金の葺き替えも大方終了しているとのことで、今後は、主に内部の漆喰天井、漆喰壁、壁紙、建具などの修理を行っていく予定とのことです。
なので、今回は建物内で、それら内部の現状と今後の修理方針などの説明を受けながらの見学となりました。
ちなみに、小樽市HP内にも保存修理工事の進捗状況、及び建物概要について掲載されていて、以下は、そこから工事のお知らせについての引用です。
重要文化財旧日本郵船株式会社小樽支店は昭和44年3月に国の重要文化財指定を受け、昭和59年から62年に保存修理工事が行われましたが、この工事から30年以上が経過し、外観・内観ともに老朽化しているため、令和2年7月より大規模な保存修理工事を行っています。
保存修理工事は建物に仮設の素屋根(覆屋)をかけ、本館の耐震補強、外壁の修理、内部漆喰壁の補修、屋根葺替え、小屋組の修理、建具の塗装・調整、壁紙の修理などを行うほか、北側の石塀についても耐震補強、石材補修を予定しています。工事中は建物全体に仮設の覆屋をかけるため、内観、外観ともに非公開となりますが、保存修理工事の進捗状況は今後ホームページにおいて随時報告します。なお、工事完了後の予定については改めてお知らせします。
重要文化財旧日本郵船株式会社小樽支店の保存修理工事について | 小樽市
保存修理工事の現場見学会の様子
では、ここからは実際の見学会の様子をお伝えしていきますね。
まずは、工事現場なので、しっかりとヘルメットをつけて。
工事中、建物全体に仮設の覆屋(おおいや)がかけられていて、普段は内観、外観ともに非公開になっていて、正面玄関も塞がっているので、今回は建物の横から入っていきました。
今回の現場見学会は、建物内部の、主にこれから修理を行っていく箇所を見学してきました。
営業室
まずは広い1階の営業室です。
最初ぱっと見たところ、あまり破損は見受けられなかったのですが、よく見ると壁や天井などに雨漏りの跡があり、その雨漏りは、軒先の板金や雨どいの破損などが要因になっているとのことです(やはり2階の方が破損が目立つ印象でした。2階の様子はまた後で)。
外壁の石材も破損していたとのことですが、これも主に雨漏りが原因とのことで、屋根からの漏水が石材に浸透して、凍結・融解によって、劣化などを引き起こしているそうです。
この雨漏りが、内部の各破損の一番の要因のようですが、それ以外は、とても状態が良いとのことなんですね。
鉄の支柱はあとから補強で設置されたものだそうです。
支店長室
場所を1階の支店長室に移します。
天井を見ると剥がれている箇所があって、剥がれているのは、前回の昭和62年の保存修理工事の時に貼られたものだそうです。
その下に白い天井が見えているのですが、これは進駐軍が白いペンキで塗ったもので、実はその下(中)にオリジナルの天井の紙があるそうです。ただ、それは復元は難しそうとのことでした。
窓のガラスは二重のペアガラスになっていて、さらに気密性を高めるために緑色のパッキンが使われています。これはラシャ布といって、フェルトではなくて、ビリヤードや麻雀卓に使われているものと同じものだそうですよ。
応接室
隣の応接室に移動します。
ここでシャッターについて詳しい説明があって、各部屋の全ての窓にある防火シャッターはアメリカ製で、竣工時から変わらない構造で、現在も使うことができるそうです。この建物は、防火対策を徹底しているそうです。
このシャッターと窓は、施設として一般公開されていた際にも開け締めされていたため、換気が十分にされていて、それも建物の状態によい影響を与えていたのでは、という話でした。
シャッターもずっと使っていたから、今も現役なんですね。やっぱり、建物の機能は使わなとだめなんですね。
では、2階へ向かいます。
会議室
2階の大きな会議室です。
ここ会議室と貴賓室の壁には、菊模様の金唐革紙(きんからかわかみ)という高級壁紙が貼られているのですが、これが雨漏りが内壁に染み込んで、剥がれてきているそうです。
これはとても特殊な壁紙ですが、これは壁紙を復元するそうです。
廊下などは、あちこちの壁の漆喰が、雨漏りにより破損しているのが目立ちます。これは実際にどうするかは検討中だそうです。
食堂
会議室の奥の食堂です。
会議室とは木の壁で隔てているのですが。途中からは石の壁で、その境で亀裂が走ってました。
天井にもやはりシミがありました。
(これは模型の国境碑)
貴賓室
会議室の手前の貴賓室に移動します。
ここの天井はもともと薄いブルーとのことです。
壁紙はここも金唐革紙ですが、色が違うのは、昭和62年の保存修理工事の時に、途絶えた技術を復元して貼った箇所なんですね。
そう、金唐革紙は途絶えた技術を復元してるんですね。
貴賓室の壁は、雨漏りでだめになった範囲が広いので、復元した金唐革紙でぐるっと張り替えるそうです。
おわりに
現場見学会は以上で、たっぷり1時間40分くらいだったでしょうか、本当に興味深く、勉強になる見学会でした。
もちろん、専門的なことは聞き逃したり、よく分からなかったこともありましたが、確認できた範囲で、今回の見学会の様子を紹介しました、
文化財の保存修理は、体裁を整えるのも大事ですが、やはり、できるだけ部材は、もとのものをそのまま残すことが大事とのことで、傷んでいる部分は作り替え、当時のものは残す、ということなんですね
ということで、以上、旧日本郵船(株)小樽支店保存修理工事の現場見学会の様子でした。
※参加権を譲ってくれた方には、本当に感謝です。改めてこの場でお礼させていただきます。本当にありがとうございました!!
※参照
・重要文化財旧日本郵船株式会社小樽支店の保存修理工事について | 小樽市
・広報おたる令和4年9月号「旧日本郵船株式会社小樽支店 保存修理工事を行っています」
・見学会当日のA4配布資料
(工事前の2017年撮影)
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