小樽港湾事務所内の「おたるみなと資料館」に行ってきました〜南北防波堤など、小樽港建設の歴史に関する資料が展示
小樽港に伸びる南防波堤の根元部分の近くに、北海道開発局小樽開発建設部の小樽港湾事務所の建物があり、ここには「おたるみなと資料館」が入っています。
みなと資料館には、南北防波堤をはじめとした、小樽港建設の歴史に関する資料などが展示されていて、以前、一度行こうと思って建物前まで行ったのですが、入っていいのか分からずに、引き返したことがあったんです。
で、実は先月8月のことなのですが、関係者でもある知り合いの紹介で、小樽港湾事務所の副所長の案内で資料館の見学をさせていただいたんです。
ということで、念願叶って、という感じで見学させてもらった「おたるみなと資料館」について、紹介したいと思います。
※文中の館内の写真は、許可を得て撮影しました。
おたるみなと資料館について
おたるみなと資料館は、明治期から行われた南北防波堤建設の歴史的功績、そしてその価値を広く知ってもらい、後世に伝えるという役目を担っています。
この「おたるみなと資料館」は、平成11年から開設されているそうで、それ以前は近くにある、小樽市指定歴史的建造物でもある旧北海道庁土木部小樽築港事務所見張所にて、昭和59年から資料の展示をしていたそうです。
おたるみなと資料館の入館案内と地図は、文末に掲載しますね。
小樽港の南北防波堤について
そうそう、基本的な話ですが、もともと天然の良港と言われた小樽港で、明治の頃には物資の運搬のための船が、小樽港にあふれんばかりに停泊するようになるのですが、当然、海が荒れると作業ができなくなるわけで、そこで防波堤建設の必要性が出てきたんですね。
では、ここで小樽の防波堤のおさらいですが、小樽には南北に防波堤がありますが、まず最初に作られたのが、手宮側から伸びる北防波堤です。
北防波堤は、小樽港の防波堤工事の第1期工事として、初代小樽築港事務所長で「港湾工学の父」「近代土木の父」などと呼ばれる廣井勇(ひろい いさみ)によって建設されました。廣井勇は、これにより、日本人技師として、初めて本格的外洋防波堤の建設に成功することになるんですね。
第1期工事の北防波堤は、明治30年(1897年)に着工して、11年の歳月をかけて明治41年(1908年)に完成した、全長1,289mの防波堤です。
その歴史的価値から、北海道遺産、土木遺産、さらには最近認定された日本遺産「炭鉄港(たんてつこう)」の構成要素のひとつにもなっています。
そして、第2期工事として南防波堤の建設が行われるのですが、指揮をしたのは廣井勇の弟子でもある伊藤長右衛門です。
南防波堤の第2期工事は、第1期工事が終わってすぐに始まり、大正10年(1921年)に完成します。加えて、その先に島防波堤も作られ、北防波堤も延伸されています。
ちなみに、伊藤長右衛門は、第3代小樽築港事務所長だそうです(間に短い期間ですが、もう一人所長がいたそうです)。
おたるみなと資料館の展示について
では、おたるみなと資料館の展示について紹介しますね。
ここには、小樽港の南北防波堤をはじめとした、小樽港建設の歴史に関する様々な資料が展示されているのですが、中でもやはり、北防波堤を建設した廣井勇の業績を伝えるものが目に止まります。
北防波堤の構造や特徴、例えば、廣井勇が防波堤本体を安定させるために採用した、コンクリートブロックを斜め積みする「スローピング・ブロック・システム」という工法などを、模型などを使って解説しています。
※防波堤本体のコンクリートブロックが斜め積みされた様子(斜塊部)は、北防波堤の海面付近で実際に見ることができます。
また、北防波堤の建設に関しては、コンクリートに火山灰を混入して強度を増す方式を考案したりしてますが、コンクリートの経年変化に関する調査となる「長期耐久性試験」のための試験用テストピース(モルタルブリケット)や、その試験装置なども展示されています。
試験用テストピースは、今も残って保存されているそうです。
そして、もちろん、第2期工事で南防波堤を建設した、伊藤長右衛門に関する資料も展示されています。
その伊藤長右衛門が採用した工法が、ケーソンと呼ばれる大きなコンクリートの箱型の構造物を、所定の場所で水中に沈めて防波堤を作っていく工法ですが、さらに伊藤長右衛門は、陸上で製作したケーソンを動力を使わずに海上に滑り落とす進水方式を明治45年(1912年)に考案します。
その場所が、南防波堤の基部、おたるみなと資料館のすぐ横の、小樽港斜路式ケーソン製作ヤードです。
ここではケーソンについてや、斜路式ケーソン製作ヤードの仕組みなどについても展示されています。
※ケーソンが用いられたのは島防波堤などの一部で、南北防波堤は基本的に斜め積みの方式で建設されているそうです。
小樽で製作されたケーソンは、その後、小樽周辺の港にも海上運搬されて用いられたそうですが、平成17年(2005年)の製造を最後にケーソンは使用されず、ケーソン製造のための資材を運ぶために昭和10年(1935年)に作られた、大きなクレーン2基も平成28年(2016年)秋に撤去されてしまいました。
小樽港斜路式ケーソン製作ヤードは、平成21年度に土木遺産に認定されているのですが、現在は機能はしておらず、今後の扱いが気になりますね。
こちらが、小樽港湾事務所の近くに、現在も残る斜路式ケーソン製作ヤードです。
その他、屋外には明治30年頃に作られたという、北防波堤で使用されていたコンクリートブロックが1個置かれていました。
これは、昭和47年に北防波堤の途中に切り通し部を作った際に、その部分をもってきたものだそうです。
ちなみに、ブロック同士の連結に使われたというレールがくっついていたのですが、これは明治13年に開業した幌内鉄道で使われていたレールだそうです。
ということで、おたるみなと資料館の展示は、こんな感じで、他にも館内では小樽港の歴史についてのビデオもあって、見させてもらいました。
こちらは、水中で作業を行うための潜水服ですが、これをつけて作業するんですね。
空気はヘルメットにつながったホースから送られてきます。ヘルメットを実際に被らせてもらいましたが、むちゃくちゃ重かったです。
おわりに
北防波堤について驚いたのは、これまで大きな修復はなく、基部に関しては建設時そのままだそうです(防波堤上部のコンクリート部分は修復しているそうで、南防波堤も修復はしているそうです)。今後、いったいいつまでもつのでしょうかね。
小樽の歴史を学んでいくと、必ず登場するのが小樽港建設の歴史と、その中でも重要な南北防波堤建設についてですが、ここにくれば、当時の貴重な資料が、詳しい解説とともに展示されています。
興味のある方は、訪れてみるといいかもしれませんね。
ということで、小樽港湾事務所内の「おたるみなと資料館」について紹介しました。
おたるみなと資料館の入館案内
おたるみなと資料館は、小樽港湾事務所の1階にあります(建物に入って右)。
直接行ってすぐに見学できるそうですが、小樽港湾事務所の建物に入っても誰もいないことがあるので、受付横のインターホンで事務室に連絡してくださいとのことです。
開館日時:平日9:00〜16:30
(12:00〜13:00の昼の休憩時間を除く)
※土・日・祝・年末年始は休館です。
入館無料
お問合わせ:0134-22-6131(小樽港湾事務所)
※建物前に駐車場があります。
※みなとのしごと | みなとの資料コーナー |小樽開発建設部
※小樽港湾事務所 |小樽開発建設部
※【追記 2019.9.23】おたるみなと資料館という名称について、建物などには「おたるみなと資料館」と表示されてますが、現在、小樽開発建設部小樽港湾事務所では、「みなとの資料コーナー」という名称で呼んでいるとのことです。
※ん?グーグルマップに防波堤が地形として表示されないですね!?残念。
※参考サイト
・小樽港北防波堤の解説シート | 土木学会 選奨土木遺産
・小樽外洋防波堤
・小樽みなとと防波堤 | 各地の北海道遺産 | 次の世代に残したい北海道の宝物 北海道遺産
・小樽港斜路式ケーソン製作ヤード | 土木学会 選奨土木遺産
※参考書籍
・小樽散歩案内(発行:有限会社ウィルダネス)
・おたる案内人テキストブック(小樽観光大学校運営委員会編)
※見学時に資料「北防波堤と廣井勇」「小樽港湾事務所みなとの資料コーナー」をいただいき、とても参考にさせていただきました。
【謝辞】 今回は、北海道開発局小樽開発建設部小樽港湾事務所のご好意により、おたるみなと資料館を詳しく案内していただきました。どうもありがとうございました。
そして、今回、紹介と全ての手配をしてくださったTさん、本当にどうもありがとうございました。
【関連記事】
・小樽港の南防波堤周辺の様子と巨大なクレーン
・小樽築港の斜路式ケーソン製作ヤードの歴史のある巨大なクレーン2基が解体撤去されてます
・運河公園に建つ2つの銅像は、小樽港の近代化に深く関わりのある廣井勇と伊藤長右衛門
・手宮公園内に建つ北防波堤建設に従事した青木政徳の功績を讃える石碑
・平磯岬を迂回する道路沿いにポツンと建つ「旧北海道庁土木部小樽築港事務所見張所」は歴史的建造物
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